介護事業の開業は、「法人をつくる」→「基準を満たす準備をする」→「指定を受ける」→「指定後の届出を続ける」という順番で進みます。介護保険の報酬を請求するには、サービスの種類と事業所ごとに指定を受ける必要があり(介護保険法第70条第1項)、指定を受ける前にサービスを始めても介護報酬は請求できません。

最初に確かめるべきなのは、開こうとするサービスの指定権者がどこかと、その指定権者の申請締切です。訪問介護・通所介護などの居宅サービスは都道府県知事(指定都市・中核市では市)、地域密着型通所介護などの地域密着型サービスと居宅介護支援は市町村長が指定します。締切や事前相談の要否は指定権者ごとに違うため、物件や採用を決める前に窓口に相談することが、開業日を守る一番の近道です。

この記事では、介護保険法と厚生労働省令の条文にもとづいて、法人設立から指定、指定後の手続きまでを順に整理します。


1. 開業の全体像:指定は「法人×サービス×事業所」ごと

介護保険の指定は、事業を行う者の申請により、居宅サービスの種類と事業所ごとに行われます(介護保険法第70条第1項)。同じ法人が訪問介護と通所介護を開くなら指定は2つ、同じ訪問介護でも事業所が2か所なら指定は2つです。

開業までの流れを表にまとめます。

段階やること主な根拠・確認先
① 事業の決定サービスの種類、場所、想定する利用者数を決める指定権者の事前相談、自治体の介護保険事業計画
② 法人の設立定款の目的に介護保険事業を入れて法人を設立する介護保険法第70条第2項第1号、同法施行規則第126条の4の2
③ 物件と設備基準に合う事務室・相談室・訓練室などを確保するサービスごとの人員・設備・運営基準
④ 人員の確保管理者・サービス提供責任者・生活相談員など基準上の職員をそろえる同上
⑤ 書類の整備運営規程、重要事項説明書、契約書、苦情処理の体制などを整える介護保険法施行規則(申請事項)
⑥ 指定申請指定権者の締切までに申請書と添付書類を出す指定権者の様式・締切
⑦ 指定指定日からサービス提供と報酬請求ができる指定通知書
⑧ 指定後の手続き加算の届出、変更届、情報公表、6年ごとの更新など介護保険法第70条の2・第75条・第115条の35 ほか

ポイントは、②〜⑤は並行して進めるが、⑥の締切から逆算して段取りを組むことです。物件の契約や職員の採用が遅れると、申請に添付する平面図や勤務体制の書類がそろわず、指定日が1か月単位で後ろにずれます。


2. 指定権者はサービスによって違う

どこに申請するかは、サービスの種類で決まります。

サービスの区分指定権者根拠
居宅サービス訪問介護、訪問入浴介護、通所介護、短期入所生活介護、福祉用具貸与など都道府県知事(指定都市・中核市では市)介護保険法第70条、第203条の2(大都市等の特例)
地域密着型サービス地域密着型通所介護、認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護など市町村長介護保険法第78条の2
居宅介護支援ケアプランを作成する事業所市町村長介護保険法第79条

大都市等の特例(介護保険法第203条の2)により、都道府県が処理する事務のうち政令で定めるものは、指定都市・中核市が処理します。同じ「通所介護」でも、事業所の所在地が指定都市・中核市かどうかで窓口が変わるので、所在地の自治体のホームページで担当課を確かめてください。

地域密着型サービスは、原則としてその市町村の被保険者だけが利用できるサービスです。指定は、指定をした市町村長がその長である市町村の被保険者への給付について効力を持つとされています(介護保険法第78条の2第1項)。地域密着型通所介護を開く場合、他の市町村に住む人を受け入れるには、その市町村の指定も別に必要になる点に注意します。


3. 法人の設立:個人事業では指定を受けられない

居宅サービスの指定は、申請者が都道府県の条例で定める者でないときは受けられません(介護保険法第70条第2項第1号)。その条例の基準として、厚生労働省令は「法人であること」を定めています(介護保険法施行規則第126条の4の2。病院・診療所などが行う一部のサービスを除く)。地域密着型サービスと居宅介護支援も、同じように申請者は市町村の条例で定める者であることが求められます(同法第78条の2第4項第1号、第79条第2項第1号)。

法人の種類は、株式会社・合同会社・一般社団法人・NPO法人・社会福祉法人などがありえます。設立のときに確認しておきたいのは次の点です。

  • 定款の「目的」に、行うサービスが読み取れる記載がある(例:介護保険法に基づく居宅サービス事業)
  • 申請時に添付する登記事項証明書に、その目的が反映されている
  • 役員が指定の欠格事由に当たらない(申請書に誓約書を付けます)
  • 将来ほかのサービスを加える可能性があるなら、その目的も入れておく

定款の目的の書き方は指定権者によって確認の厳しさが違うため、登記の前に指定権者へ案文を見せて確認すると、登記のやり直しを避けられます。


4. 人員・設備の基準:訪問介護と通所介護の例

人員・設備・運営の基準は、厚生労働省令(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準、平成11年厚生省令第37号)を基に、都道府県・市町村の条例で定められています。代表的な2つのサービスの人員基準を示します。

訪問介護(同基準 第5条・第6条)

職種基準
訪問介護員等常勤換算方法で2.5以上
サービス提供責任者利用者の数が40またはその端数を増すごとに1人以上。介護福祉士その他厚生労働大臣が定める者で、専ら訪問介護に従事する者
管理者常勤で、専ら管理の職務に従事する者(支障がなければ他の職務との兼務可)

通所介護(同基準 第93条)

職種基準
生活相談員提供日ごとに、提供時間帯に勤務する時間の合計を提供時間で割った数が1以上
看護職員単位ごとに、専ら当該通所介護に当たる看護職員が1以上確保されるために必要な数
介護職員利用者15人までは1以上。15人を超える部分は、5またはその端数ごとに1を加えた数以上
機能訓練指導員1以上
常勤生活相談員または介護職員のうち1人以上は常勤

利用定員が18人以下の通所介護は「地域密着型通所介護」として市町村の指定になるなど、定員の決め方で指定権者と基準が変わります。定員は物件の広さ(食堂・機能訓練室の面積)と職員の配置の両方から決まるため、物件を契約する前に指定権者の基準で計算してください。


5. 指定申請に必要な書類

申請書に書く事項は、サービスごとに介護保険法施行規則で決められています。訪問介護の場合(同規則第114条第1項)は次のとおりです。

申請事項実務で用意するもの
事業所の名称・所在地申請書
申請者の名称・主たる事務所の所在地・代表者の氏名等申請書
事業開始の予定年月日申請書
申請者の登記事項証明書または条例等登記事項証明書(履歴事項全部証明書など)
事業所の平面図平面図、写真を求める自治体もある
利用者の推定数申請書の該当欄
管理者・サービス提供責任者の氏名・経歴・住所経歴書、資格証の写し
運営規程運営規程
利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要苦情処理の体制の書類
従業者の勤務の体制及び勤務形態勤務形態一覧表
欠格事由に該当しないことの誓約誓約書
その他指定に関し必要と認める事項指定権者の様式による

様式は指定権者ごとに用意されていますが、厚生労働省は申請・届出の標準様式を示し、紙の提出に代わる「電子申請・届出システム」を運用しています。自治体によっては、この電子システムでの申請が可能です。愛知県は、令和7年度末までにすべての地方公共団体でこのシステムの利用が開始されると案内しています。自分の指定権者が電子申請に対応しているかを、窓口のページで確認してください。

申請の締切(指定日の何か月前までに出すか)と、事前相談の要否は指定権者ごとに決まっています。この記事では一律の期限は示しません。必ず窓口のページで確認し、そこから逆算して物件・採用・書類の日程を組んでください。


6. 開業準備の段取り:逆算で組む

申請締切から逆算した段取りの例を、作業の順番で示します(期間は指定権者の締切と物件の状況で変わるため、ここでは順番だけを示します)。

  1. サービス・地域・定員の決定:指定権者の窓口で事前相談し、基準・締切・様式を入手する
  2. 法人の設立:定款の目的を指定権者に確認してから登記する
  3. 物件の確保:基準の面積・設備を満たすか、用途地域・建築・消防の手続きが必要かを確認する
  4. 職員の確保:管理者・サービス提供責任者・生活相談員など、申請書に氏名を書く職員を先に決める
  5. 書類の作成:運営規程・重要事項説明書・契約書・個人情報の同意書・苦情処理の手順・勤務形態一覧表
  6. 指定申請:締切までに提出し、補正の指示に対応する
  7. 指定前の準備:国民健康保険団体連合会(国保連)への請求の準備、ケアマネジャーや地域包括支援センターへの事業所の案内
  8. 指定・開業:指定日からサービスを提供し、翌月から請求する

職員が10人以上になる場合は、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条。常時10人以上の労働者を使用する使用者)。10人未満でも、処遇改善加算のキャリアパス要件では任用の要件や賃金体系を書面で定めて周知することが求められるため、開業時に賃金規程を整えておくと後の加算の届出が楽になります。


7. 指定後に続く手続き

指定を受けたあとも、次の手続きが続きます。「指定を取ったら終わり」ではないことを、開業の計画に入れておきます。

手続き内容根拠
加算の届出加算を算定するには、体制等に関する届出が必要。居宅サービスは15日以前の届出で翌月から算定厚生省老人保健福祉局企画課長通知(老企第36号)
変更の届出事業所の名称・所在地・管理者・運営規程などを変えたら10日以内介護保険法第75条第1項
廃止・休止の届出廃止・休止の日の1月前まで介護保険法第75条第2項
介護サービス情報の報告都道府県知事に報告し、公表される介護保険法第115条の35
経営情報の報告毎会計年度終了後に収益・費用などを報告(令和6年度創設)介護保険法第115条の44の2
指定の更新6年ごとに更新を受けないと効力を失う介護保険法第70条の2
運営指導指定の有効期間内に少なくとも1回が原則介護保険施設等運営指導マニュアル

介護サービス情報の報告は、計画の基準日前の1年間に介護報酬などの支払いを受けた額が100万円以下の事業所は対象外です(介護保険法施行規則第140条の44)。開業直後に報告の対象になるかどうかは、都道府県の計画で確認してください。

経営情報の報告(介護サービス事業者経営情報の報告)は、厚生労働省の案内によれば、2025年1月1日以降に会計年度が終わる場合は終了後3か月以内に報告するもので、報告にはGビズIDプライムのアカウントが必要です。開業時にGビズIDを取っておくと、報告の時期に慌てずに済みます。


8. 開業でつまずきやすい点

  • 物件を先に契約してしまう:面積や設備が基準に合わない、用途の変更や消防の手続きが必要だった、という理由で申請が遅れることがあります。契約の前に平面図を指定権者に見せて相談してください。
  • 申請書に書く職員が採用前:管理者やサービス提供責任者の氏名・資格は申請書の必須事項です。内定の段階で書類を集めておきます。
  • 運営規程と重要事項説明書の食い違い:営業日・営業時間・利用定員・料金が書類ごとに違うと、補正を求められます。開業後の運営指導でも確認される点です。
  • 地域密着型の利用者の範囲:地域密着型通所介護は、原則として指定を受けた市町村の住民だけが対象です。隣接市の利用者を見込む事業計画は、その市町村の指定の可否を先に確かめます。
  • 加算の届出の出し忘れ:開業月から加算を算定するつもりでも、届出がなければ算定できません。指定申請と同時に届け出る加算を整理しておきます。

9. まとめ

  • 介護保険の指定は、サービスの種類と事業所ごとに、申請によって行われる(介護保険法第70条第1項)
  • 居宅サービスは都道府県知事(指定都市・中核市は市)、地域密着型サービスと居宅介護支援は市町村長が指定権者
  • 申請者は原則として法人であることが必要(同法第70条第2項第1号、施行規則第126条の4の2)
  • 人員・設備の基準はサービスごとの厚生省令と条例で決まる。訪問介護は訪問介護員等が常勤換算2.5以上、サービス提供責任者は利用者40人ごとに1人以上
  • 申請の締切と事前相談の要否は指定権者ごとに違う。最初に窓口で確かめ、逆算で段取りを組む
  • 指定後も、加算の届出、10日以内の変更届、情報公表、経営情報の報告、6年ごとの更新が続く

参考資料