介護事業所の業務継続計画(BCP)は、感染症と自然災害の両方について作り、職員に周知し、研修と訓練を定期的に行い、必要に応じて見直すことが運営基準で義務づけられています(訪問介護なら指定居宅サービス等基準 第30条の2)。令和6年度の介護報酬改定からは、計画を作っていない事業所の基本報酬が減算されます。

減算は、感染症・災害のいずれか又は両方の計画が策定されていない場合に適用され、施設・居住系サービスは所定単位数の100分の3、その他のサービスは100分の1です(居宅療養管理指導・特定福祉用具販売を除く)。令和7年3月31日までの経過措置はすでに終わっているため、2026年9月時点では、計画の無い事業所は減算の対象です。

この記事では、運営基準、解釈通知、厚生労働省のガイドラインにもとづいて、BCPに盛り込む項目、研修・訓練の回数、作り方の手順を整理します。


1. BCPの義務と減算の関係

運営基準の義務

訪問介護の運営基準(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第30条の2)は、次の3つを求めています。ほかのサービスの基準にも同じ趣旨の規定があります。

  1. 感染症や非常災害の発生時に、サービスの提供を継続的に実施し、非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(業務継続計画)を策定し、必要な措置を講じる
  2. 従業者に業務継続計画を周知し、必要な研修と訓練を定期的に実施する
  3. 定期的に業務継続計画を見直し、必要に応じて変更する

業務継続計画未策定減算(令和6年度改定)

項目内容
対象全サービス(居宅療養管理指導、特定福祉用具販売を除く)
減算の幅施設・居住系サービスは所定単位数の100分の3、その他のサービスは100分の1
算定要件感染症若しくは災害のいずれか又は両方の業務継続計画が策定されていない場合
経過措置令和7年3月31日まで(感染症の指針と非常災害の具体的計画があれば不適用、訪問系・福祉用具貸与・居宅介護支援は不適用)。現在は終了

「感染症のBCPはあるが、災害のBCPが無い」だけでも減算の対象になります。まず、2つの計画がそろっているかを確認してください。


2. BCPに盛り込む項目

解釈通知(訪問介護などは老企第25号)は、業務継続計画に次の項目を記載するよう示しています。感染症と災害の計画は一体的に策定してもよいとされています。

計画盛り込む項目
感染症にかかる業務継続計画① 平時からの備え(体制構築・整備、感染症防止に向けた取組の実施、備蓄品の確保など)
② 初動対応
③ 感染拡大防止体制の確立(保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有など)
災害にかかる業務継続計画① 平常時の対応(建物・設備の安全対策、電気・水道などのライフラインが停止した場合の対策、必要品の備蓄など)
② 緊急時の対応(業務継続計画発動基準、対応体制など)
③ 他施設及び地域との連携

解釈通知は、他のサービス事業者との連携などにより計画の策定、研修、訓練を行うことも差し支えないとしています。同じ法人の複数の事業所や、近隣の事業所と共同で作ることも考えられます。


3. 研修と訓練の回数

回数はサービスごとの解釈通知で決まっています。確認できた主なものを示します。

サービス研修訓練根拠
訪問介護など(居宅サービス)年1回以上。新規採用時にも別に行うことが望ましい年1回以上老企第25号
介護老人保健施設年2回以上。新規採用時にも別に行うことが望ましい年2回以上老企第44号

訓練は、机上を含めその実施手法は問わず、机上と実地を適切に組み合わせることが適切とされています。また、感染症の業務継続計画の訓練は、感染症の予防及びまん延防止のための訓練と一体的に行ってもよいとされています。

研修と訓練は、実施した内容を記録することが大切です。運営指導では、業務継続計画・感染症対策・虐待防止などの体制の整備状況が確認されます。

関連する体制(感染症対策・虐待防止)

BCPと同じく、令和6年度までに義務化された体制があります。訪問介護の解釈通知では次のとおりです。

体制主な内容
感染症の予防及びまん延の防止対策を検討する委員会をおおむね6月に1回以上開催、指針の整備、研修(年1回以上)と訓練(年1回以上)
虐待の防止委員会の定期的な開催、指針の整備、研修(年1回以上、新規採用時には必ず)、担当者の設置

虐待防止の措置(委員会・指針・研修・担当者)が講じられていない場合は、令和6年度改定で新設された高齢者虐待防止措置未実施減算(所定単位数の100分の1)の対象になります(福祉用具貸与は3年間の経過措置)。介護老人保健施設の感染症対策委員会はおおむね3月に1回以上、研修・訓練は年2回以上など、施設系は回数が多いので、自サービスの解釈通知で確認してください。


4. BCPの作り方:6つの手順

厚生労働省は、BCP作成のためのガイドラインとひな形を公開しています。これを使った作り方の手順を示します。

手順1:ガイドラインとひな形を入手する

厚生労働省の「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」のページに、次の資料があります。

  • 介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン(令和6年3月に改訂)
  • 介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン
  • サービス類型別(入所系・通所系・訪問系)のひな形
  • 記載の例を入れたひな形、研修動画

手順2:体制と役割を決める

計画の責任者、各担当(情報収集、職員の連絡、利用者・家族への連絡、備蓄の管理など)を決めます。管理者が不在のときの代行者も決めておきます。

手順3:優先する業務を決める

職員が減ったとき、ライフラインが止まったときに、どの業務を続け、どの業務を減らし、どの業務を止めるかを決めます。訪問系なら、訪問の優先順位(医療的な必要性、独居、家族の介護の有無など)を利用者ごとに整理しておくと、発生時の判断が早くなります。

手順4:平時の備えを具体的にする

  • 備蓄品(衛生用品、食料・飲料水、燃料など)の品目・数量・保管場所・点検の担当
  • 職員・利用者・関係機関の連絡先の一覧と、連絡手段が使えない場合の代替
  • 建物・設備の安全対策(家具の固定、非常用電源など)
  • ハザードマップで事業所と利用者宅のリスクを確認する

手順5:発生時の対応を時系列で書く

感染症なら、感染疑い者が発生した時点から、保健所への報告、濃厚接触者の把握、ゾーニング、職員の配置の調整までを時系列で書きます。災害なら、発動基準(どの規模の地震・災害で計画を発動するか)と、発動後の初動を時系列で書きます。

手順6:周知・研修・訓練・見直し

作った計画を職員に周知し、研修と訓練を行います。訓練で見つかった課題を計画に反映し、見直した日付と内容を記録します。


5. 訓練のやり方の例

訓練の手法は問われていませんが、机上と実地を組み合わせることが求められます。

形式確かめること
机上訓練「職員の3割が出勤できない」などの想定を置き、各自の行動を時系列で書き出して話し合う優先業務の判断、連絡の流れ、役割の抜け
実地訓練連絡網を実際に回す、備蓄品を取り出して使う、防護具の着脱をする連絡に要する時間、備蓄の不足、手順の実行可能性
一体的な訓練感染症対策の訓練と、感染症BCPの訓練を同時に行う初動対応から業務継続までのつながり

訓練のあとは、気づいた課題・改善策・計画への反映の有無を記録に残します。これが見直しの記録にもなります。


6. BCPのチェックリスト

  • 感染症の業務継続計画がある
  • 災害の業務継続計画がある(両方そろっていないと減算の対象)
  • 感染症の計画に、平時からの備え・初動対応・感染拡大防止体制の確立が入っている
  • 災害の計画に、平常時の対応・緊急時の対応・他施設及び地域との連携が入っている
  • 職員に周知した記録がある
  • 研修を解釈通知の回数以上行い、記録している(新規採用時も含む)
  • 訓練を解釈通知の回数以上行い、記録している(机上と実地の組合せ)
  • 訓練の結果を踏まえて見直し、変更の日付と内容を記録している
  • 虐待防止・感染症対策の委員会・指針・研修も整っている

7. 落とし穴

  • ひな形の空欄を埋めただけ:事業所の実情(職員数、利用者の状況、立地のリスク)が反映されていない計画は、発生時に使えません。
  • 作ったまま見直していない:職員の入れ替わりや連絡先の変更が反映されていないと、発生時に連絡が回りません。
  • 研修と訓練の記録が無い:実施していても、記録が無ければ実施したことを示せません。
  • 片方の計画しか無い:感染症だけ、災害だけの計画では、減算の対象になります。

8. まとめ

  • 業務継続計画(BCP)は、感染症と災害の両方について作り、周知・研修・訓練・見直しを行う義務がある
  • 令和6年度改定で業務継続計画未策定減算が導入され、経過措置は令和7年3月31日で終了した。施設・居住系は100分の3、その他は100分の1
  • 研修・訓練の回数はサービスごとの解釈通知で決まる。訪問介護などは年1回以上、介護老人保健施設は年2回以上
  • 作り方は厚生労働省のガイドラインとサービス類型別のひな形を使い、事業所の実情に合わせて書き込む
  • 虐待防止の措置が無い場合は、別に高齢者虐待防止措置未実施減算(100分の1)の対象になる

体制の整備状況は運営指導で確認されます。準備の順番は介護事業所の運営指導の準備で整理しています。


参考資料