運営指導の準備は、実施通知に書かれた「準備すべき書類等」と、厚生労働省の「確認項目及び確認文書」を突き合わせるところから始めます。運営指導では、確認項目以外の項目は特段の事情がない限り確認されず、確認文書以外の文書は原則として求められないとされています(介護保険施設等運営指導マニュアル)。範囲は決まっているので、その範囲の書類が「そろっていて、互いに矛盾していない」状態をつくることが準備の中心です。
通知は、実施予定日のおおむね1月以上前に届くのが原則です。確認の対象は、運営指導を行う年度の前年度から直近(おおむね1月程度前まで)の実績で、利用者ごとの記録は原則3名以内(居宅介護支援はケアマネジャー1人あたり1〜2名)に絞って確認されます。
この記事では、厚生労働省の「介護保険施設等運営指導マニュアル」(令和4年3月策定、令和6年7月改訂)にもとづいて、通知から当日、結果通知までの準備の順番を整理します。
1. 運営指導の仕組みを押さえる
3つの指導
マニュアルは、運営指導を次の3つに分けています。
| 指導の種類 | 確認すること | 方法 |
|---|---|---|
| 介護サービスの実施状況指導 | 個別サービスの質(ケアマネジメントのプロセスにもとづくサービスの実施、利用者の生活実態、虐待や適切な手続きを経ない身体拘束がないか) | 実地 |
| 最低基準等運営体制指導 | 人員・設備・運営の基準にもとづく体制 | 実地。現場に行かなくても確認できる部分はオンライン等も可 |
| 報酬請求指導 | 加算などの算定要件への適合 | 実地。現場に行かなくても確認できる部分はオンライン等も可 |
頻度
運営指導は、原則として指定の有効期間(6年)内に少なくとも1回以上行われます。居住系サービスや施設サービスなど利用者の生活の場となるサービスは、3年に1回以上の頻度が望ましいとされています。新規指定時・更新時・報酬改定時などに回数が増やされることもあります。
運営指導と監査の違い
運営指導は、事業所の任意の協力を前提とした行政指導です。これに対し、著しい基準違反や不正請求、虐待などが疑われる場合は監査(立入検査などの権限を伴う)に切り替わります。市町村が虐待ありと認めた場合などは、事前の通告なしに監査が行われることがあります。
2. 実施通知に書かれていること
マニュアルと介護保険施設等指導指針では、実施日の1月前までに、次の内容を通知するとされています。
| 通知の項目 | 準備でやること |
|---|---|
| ① 根拠規定と目的 | どの指導(実施状況・運営体制・報酬請求)かを確認する |
| ② 日時と場所 | 当日の利用者対応と職員のシフトを組む |
| ③ 指導担当者 | 人数に関係なく、提出書類は1部でよい |
| ④ 事業所の出席者(役職名で可) | 管理者のほか、実情に詳しい職員や法人の労務・会計担当者も同席できる |
| ⑤ 準備すべき書類等 | 原本が基本だが、写しでも差し支えない |
| ⑥ 当日の進め方 | 形態(実地・オンライン)とスケジュールを確認する |
マニュアルは、事業所の負担を減らすため、事前提出資料を指導担当者の人数分用意させない(提出は1部)こと、新規指定・更新・変更のときにすでに自治体に出している書類は改めて求めないことを自治体に求めています。
緊急時などは、事前の通知なしに、運営指導の開始時に文書で通知して実施することもありえます。日ごろから書類をそろえておくことが、最終的には一番の準備になります。
3. 通知から当日までの準備の順番
ステップ1:範囲を決める(通知を受けた週)
- 通知の「準備すべき書類等」を一覧表にし、担当者と期限を割り振る
- 厚生労働省の「確認項目及び確認文書」の、自事業所のサービスの部分を印刷して照合する
- 確認の対象期間(前年度から直近まで)を書き出す
- 指定権者が集団指導で配った資料や自己点検表があれば、それも使う
ステップ2:人員の点検
マニュアルは、勤務体制一覧表を元に、勤務実績表やその根拠となるタイムカードから、実際の員数が確保されているかを確認するとしています。勤怠管理システムやアプリで管理している場合は、画面での確認になるため、仕組みと見方を説明できるようにしておきます。
- 勤務体制一覧表(予定)と勤務実績(実際)が一致しているか
- 常勤換算の計算が基準を満たしているか(休暇・欠勤の扱いを含む)
- 管理者・サービス提供責任者・生活相談員などの兼務が基準の範囲内か
- 資格が要件になる職種の資格証の写しがそろっているか
ステップ3:運営の点検
マニュアルが確認の例として挙げている項目を中心に点検します。
- 運営規程と重要事項説明書の記載に齟齬がなく、最新か
- 重要事項説明書の交付・説明・同意の記録があるか
- 災害対策の訓練が適切に行われているか(火災は年2回以上など、サービスの基準による)
- 事故対応のマニュアル(名称は問わない)が用意されているか
- 保険者への事故報告が適切に行われているか
- 身体拘束廃止のための体制が整備されているか(該当するサービス)
- 業務継続計画(BCP)、感染症対策、虐待防止の委員会・指針・研修・訓練の記録があるか
- 苦情の受付と対応の記録があるか
ステップ4:利用者ごとの記録の点検
利用者の記録は原則3名以内が確認の対象です。どの利用者が選ばれても説明できるよう、次の流れがそろっているかを確認します。
- アセスメント
- サービス計画(訪問介護計画・通所介護計画など)と、その説明・同意・交付の記録
- サービス提供の記録
- モニタリング・計画の見直し
- 居宅サービス計画(ケアプラン)との整合
ステップ5:加算の根拠書類の点検
報酬請求指導では、確認文書に限らず、加算ごとの要件にかかる文書で適合を確認するとされています。算定している加算を一覧にし、要件ごとに根拠書類を対応させます。
| 算定している加算 | 要件 | 根拠書類 | 期間内に欠けた月はないか |
|---|---|---|---|
| (加算名) | (人員・研修・会議・計画など) | (勤務表・研修記録・会議録など) | (確認結果) |
要件を欠いていた月が見つかったら、その月の算定をどう扱うか(過誤調整の要否)を整理しておきます。加算の要件を欠いたときの扱いは、介護報酬の加算の取り方で整理しています。
ステップ6:変更届の出し漏れの確認
管理者の交代、営業時間の変更、運営規程の改定などで変更届を出していないものがないかを確認します。自治体はすでに提出された書類を持っているため、届出の内容と実際の運営が違えば当日わかります。出し漏れが見つかったら、運営指導の前に届け出ます。変更届の対象と期限は介護事業所の変更届を参照してください。
4. 当日の流れと対応
当日の流れは通知に書かれた進め方に従いますが、一般的には次のような順序になります。
- 開始のあいさつ、運営指導の目的と流れの説明
- 事業所の概要の聴き取り(管理者など)
- 施設・設備の確認と、サービス提供の様子の確認(実施状況指導の場合)
- 書類の確認(人員・運営・利用者記録・加算)
- 不明点の質問と回答
- 講評(行われない場合もある)
当日の対応で意識したい点は次のとおりです。
- 聞かれたことに、書類を示して答える:記憶で答えず、根拠の書類を示す
- わからないことは持ち帰る:推測で答えず、確認して後で回答する
- 説明できる人が同席する:管理者だけでなく、実情に詳しい職員や法人の労務・会計の担当者の同席も認められている
- 指摘の根拠を確認する:マニュアルは、指導には根拠規定と丁寧な説明が必要だとしています。どの基準・通知にもとづく指摘かを確認し、メモを残す
5. 結果通知と改善報告
運営指導の結果は、特段の改善事項がない場合でも通知するとされています。指摘の区分と対応は次のとおりです。
| 区分 | 内容 | 事業所の対応 |
|---|---|---|
| 文書指導 | 法令・基準などに違反している事項 | 期限までに改善報告書を提出 |
| 口頭指導 | 軽微な違反など | 改善報告は不要(ただし改善は必要) |
| 助言 | 違反ではないが、より良い運営のための提案 | 対応を検討 |
改善報告書には、どのように改善したのかを具体的に書きます。すぐに改善できない場合も、「努力する」ではなくいつまでに何をするかを明確に示すよう求められます。報告書の内容が実施されているかは、後日の運営指導などで確認されることがあります。
報酬の返還について
マニュアルは、返還について次のように整理しています。
- 運営基準の違反だけを理由に、基本報酬の返還や過誤調整を求めることはできない(例:サービス提供記録がないという事実だけでは、基本報酬の返還の根拠にならない)
- 加算の要件を満たしていなかった場合は、自己点検のうえ過誤調整を行うよう指導される
- サービスを提供していないのに請求した、減算すべきところを減算しなかったなど、不正が疑われる場合は監査を行い、事実が認められれば返還金として徴収される
記録の不備は返還に直結しなくても、文書指導の対象になり、不正の疑いを招く原因にもなります。記録は「運営指導のため」ではなく、サービスを提供した事実を示すために日々残すものと位置づけます。
6. 準備でつまずきやすい点
- 通知が来てから記録を作り直す:日付をさかのぼって記録を作ることは、虚偽の疑いを招きます。欠けている記録は欠けているものとして整理し、改善策を示します。
- 対象期間の外まで準備する:確認の対象は前年度から直近までが原則です。範囲を絞って、その期間の書類の整合性に時間を使います。
- 勤務表と実績の差を説明できない:急な欠勤や代替の勤務は、実績と理由がわかるように残しておきます。
- 委員会・研修の記録が要件の書き方と合っていない:日時・参加者・内容が読み取れる形にします。
- 加算の要件を欠いた月の扱いを決めていない:見つけた時点で、過誤調整を含めた扱いを整理しておきます。
7. まとめ
- 運営指導は、確認項目・確認文書の範囲で行われる行政指導。通知は実施日のおおむね1月以上前に届く
- 確認の対象は前年度から直近まで、利用者記録は原則3名以内(居宅介護支援はケアマネジャー1人あたり1〜2名)
- 準備は、①範囲の確定、②人員、③運営、④利用者記録、⑤加算の根拠、⑥変更届の出し漏れ、の順で進める
- 結果は改善事項がなくても通知される。文書指導は期限までに具体的な改善報告を出す
- 運営基準違反だけで基本報酬の返還は求められないが、加算の要件の不備は過誤調整、不正は監査と返還につながる
参考資料
- 厚生労働省「介護保険施設等に対する実地指導・監査等(介護保険施設等運営指導マニュアル)」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/shidou/index.html
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」(令和4年3月策定、令和6年7月改訂):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001281524.pdf
- 厚生労働省「介護保険施設等の指導監督について(通知)」(老発0331第7号、最終改正 老発0704第7号 令和6年7月4日):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001283818.pdf
- 厚生労働省「介護保険施設等の指導監督」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/service/index_00001.html