介護事業所の非常災害対策は、「運営基準にもとづく計画・訓練」と「施設の所在地の水害・土砂災害リスクに応じた避難確保計画」の2つが別々に義務付けられているため、どちらか一方だけを整えても不十分になります。この記事では、通所介護の運営基準を例に、計画に書く内容、訓練の頻度、要配慮者利用施設に追加で課される義務を整理します。


1. 運営基準が求める非常災害対策

通所介護の運営基準(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第103条)は、次のように定めています。

指定通所介護事業者は、非常災害に関する具体的計画を立て、非常災害時の関係機関への通報及び連携体制を整備し、それらを定期的に従業者に周知するとともに、定期的に避難、救出その他必要な訓練を行わなければならない。 指定通所介護事業者は、前項に規定する訓練の実施に当たって、地域住民の参加が得られるよう連携に努めなければならない。

同様の規定は、短期入所生活介護・特定施設入居者生活介護など、利用者が施設に集まる・宿泊する形態のサービスの運営基準にも置かれています。訪問介護のように利用者の自宅へ出向く形態のサービスは、この条文の対象にはなりません。

計画に書く内容は、この条文の構成に沿って整理すると次のようになります。

項目内容
非常災害に関する具体的計画想定する災害(地震・水害・土砂災害・火災など)、発生時の対応の流れ、避難先
関係機関への通報・連携体制消防・市町村・家族への連絡順、連絡先、連絡担当者
従業者への周知計画の内容を、どの頻度で、どう周知するか
訓練避難・救出その他必要な訓練の内容と実施頻度
地域住民との連携訓練への地域住民の参加をどう得るか(努力義務)

2. 訓練の頻度

運営基準は「定期的に」と定めるだけで、具体的な回数は書いていません。回数の目安になるのは、消防法令上の防火管理者の訓練義務です。

消防法施行規則(第3条第10項)は、消防法施行令別表第一に定める一定の防火対象物(老人福祉施設・老人短期入所施設・通所介護事業所などの(六)項に当たる施設を含む)の防火管理者に対し、消火訓練及び避難訓練を年2回以上実施することを義務付けています。防火管理者の選任は、収容人員などの規模に応じて義務になる制度なので、自事業所が防火管理者の選任対象かどうかを消防署に確認したうえで、この年2回以上を訓練頻度の目安にします。


3. 要配慮者利用施設の避難確保計画(水害・土砂災害)

事業所の所在地が、水害(洪水・高潮など)や土砂災害のリスクがある区域にあり、市町村地域防災計画に「要配慮者利用施設」として名称・所在地が定められている場合、運営基準の非常災害対策とは別に、次の義務が課されます。

  • 避難確保計画の作成(水防法第15条の3第1項、または土砂災害防止法第8条の2第1項):洪水時・土砂災害時に利用者の円滑かつ迅速な避難を確保するための訓練その他の措置に関する計画
  • 市町村長への報告(同第2項):計画を作成したとき、遅滞なく報告する。変更したときも同様
  • 訓練の実施と結果報告(水防法第15条の3第5項):計画にもとづき訓練を実施し、その結果を市町村長に報告する
  • 自衛水防組織の設置(同第7項、努力義務)

計画を作成していない場合、市町村長は必要な指示ができ、正当な理由なく指示に従わないときは、その旨を公表できるとされています(水防法第15条の3第3項・第4項)。自事業所が要配慮者利用施設に指定されているかどうかは、市町村の防災担当課やハザードマップで確認できます。


4. 整える手順

  1. ハザードマップで所在地のリスクを確認する:洪水・土砂災害・高潮のリスクがあるか、要配慮者利用施設に指定されているかを市町村に確認する
  2. 運営基準の計画を作成・更新する:想定災害、避難先、関係機関への通報体制、従業者への周知方法を書面にする
  3. 要配慮者利用施設に該当する場合、避難確保計画を別途作成し、市町村長に報告する
  4. 訓練を実施する:消火・避難訓練は年2回以上を目安に、地域住民の参加も呼びかける
  5. 訓練後の記録・報告を残す:実施日、参加者、訓練内容、要配慮者利用施設の場合は市町村長への結果報告の記録を保管する
  6. BCP(業務継続計画)と内容の整合を確認する:非常災害対策の計画とBCPは目的が異なるが、避難先や連絡体制など重複する項目は同じ内容にそろえる

5. 落とし穴

  • 計画を作ったまま訓練をしていない:運営基準は訓練の実施までを義務としています。計画だけでは満たしません
  • 要配慮者利用施設への指定に気づいていない:市町村地域防災計画は事業所側に個別通知が来ない場合もあるため、確認を怠ると義務に気づかないまま計画未作成の状態が続きます
  • 訓練の実施記録を残していない:運営指導で確認される項目です。実施日・内容・参加者を記録に残します
  • BCPと非常災害対策の計画が別々に更新され、内容が食い違う:避難先や連絡体制などは同じ内容にそろえておきます

6. まとめ

  • 通所介護など施設に利用者が集まる形態のサービスは、運営基準(例:通所介護基準第103条)で非常災害に関する具体的計画と定期的な訓練が義務
  • 訓練の回数は運営基準では「定期的に」だが、消防法施行規則は防火管理者に年2回以上の消火・避難訓練を義務付けている
  • 水害・土砂災害のリスクがある地域で要配慮者利用施設に指定されている場合、水防法・土砂災害防止法にもとづく避難確保計画の作成・報告・訓練が別途必要
  • 訓練は地域住民の参加が得られるよう連携に努めることも運営基準に定められている

BCP(業務継続計画)の作り方は、介護事業所のBCP|作り方と研修・訓練、未策定減算で整理しています。避難先や連絡体制など、非常災害対策の計画と重複する項目は、内容をそろえて整合させてください。


参考資料