身体拘束は、切迫性・非代替性・一時性の3要件のすべてを満たし、記録を残した場合に限り、緊急やむを得ない措置として認められます。この3要件を欠いた身体拘束や、記録の無い身体拘束は、運営基準違反として扱われます。加えて、施設・居住系サービスでは、身体拘束適正化検討委員会・指針・研修のいずれかが欠けていると、身体拘束廃止未実施減算の対象になります。
この記事では、緊急やむを得ない場合の3要件と記録すべき事項、委員会・指針・研修の頻度、運営指導で確認される記録の整え方を整理します。
身体拘束が原則として禁止される理由と例外の要件
介護保険の運営基準は、身体拘束その他利用者の行動を制限する行為を原則として禁止しています。例外として認められるのは、利用者や他の利用者の生命・身体を保護するため、緊急やむを得ない場合に限られます。この例外に当たるかどうかは、次の3要件をすべて満たすかで判断します。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 切迫性 | 利用者本人または他の利用者の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと |
| 非代替性 | 身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと |
| 一時性 | 身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること |
3要件は、その場にいた職員1人の判断ではなく、あらかじめ決めた手順に沿ってチームで検討し、記録することが前提になります。検討の記録が無ければ、実際には要件を満たす状況だったとしても、運営指導では要件を満たしていないと判断されます。
記録すべき事項
緊急やむを得ない場合に身体拘束を行ったときは、次の事項を記録します。
- 身体拘束の態様(どのような方法で行ったか)
- 身体拘束を行った時間
- その際の利用者の心身の状況
- 緊急やむを得ないと判断した理由(3要件それぞれについての検討内容)
記録が不十分な場合、身体拘束そのものが適正に行われたかを説明できません。運営指導では、この記録の有無と内容が重点的に確認されます。
委員会・指針・研修の要件
施設・居住系サービス(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護など)の運営基準は、次の3つの措置を求めています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 身体拘束適正化検討委員会 | おおむね3か月に1回以上開催し、結果を従業者に周知徹底する |
| 指針の整備 | 身体的拘束等の適正化のための指針を整備する |
| 研修の実施 | 従業者に対し、身体拘束等の適正化のための研修を年2回以上、かつ新規採用時に実施する |
委員会には、第三者や精神科の専門医など外部の視点を加えることが望ましいとされています。感染対策委員会や虐待防止委員会と一体的に開催することも可能ですが、議題と記録は分けて残してください。
対象サービスと減算率
身体拘束廃止未実施減算は、サービスの種類によって対象と減算率が異なります。
| サービスの区分 | 対象と減算率 |
|---|---|
| 施設・居住系(特養、老健、介護医療院、特定施設、グループホームなど) | 委員会・指針・研修のいずれかが欠けると、所定単位数の10%を減算 |
| 短期入所系・多機能系(短期入所生活介護、看護小規模多機能型居宅介護など) | 令和6年度改定で対象に追加。令和7年4月から、委員会・指針・研修のいずれかが欠けると所定単位数の1%を減算 |
| 訪問・通所系(訪問介護、通所介護など) | 委員会の減算の対象ではないが、身体拘束を行った場合の記録の義務はある |
自分の事業所がどの区分に当たるか、減算の適用開始時期や細かい要件は、指定権者の指導内容によって確認方法が異なることがあるため、運営指導の際に確認してください。
運営指導で見られる記録のチェックリスト
- 身体拘束適正化検討委員会の議事録(開催日、出席者、議題、決定事項)が3か月に1回以上ある
- 委員会の結果を従業者に周知した記録がある
- 身体的拘束等の適正化のための指針を整備している
- 研修の実施記録(日時、内容、出席者)が年2回以上ある
- 新規採用者ごとに、採用時の研修を受けた記録がある
- 身体拘束を行った事例について、態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由の記録がある
- 3要件(切迫性・非代替性・一時性)を検討した過程が記録に残っている
落とし穴
委員会は開いているが、3要件の検討記録が無い。 委員会・指針・研修が整っていても、個別の身体拘束の場面で3要件を検討した記録が無いと、その拘束自体は不適切と判断されます。委員会の体制整備と、個別事例の記録は別に確認してください。
「一時的だから大丈夫」と、その場の判断だけで行う。 一時性は3要件の1つに過ぎません。切迫性・非代替性も含めてチームで検討したことが分かる記録が必要です。
研修を年1回で済ませてしまう。 施設・居住系サービスの研修は年2回以上かつ新規採用時が要件です。感染対策や虐待防止の研修と回数の基準が異なるため、それぞれの頻度を別に管理してください。
まとめ
- 身体拘束は、切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たし、記録を残した場合に限り、緊急やむを得ない措置として認められる
- 記録すべき事項は、態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ないと判断した理由
- 施設・居住系サービスは、委員会(3か月に1回以上)・指針・研修(年2回以上+新規採用時)が要件で、欠けると所定単位数の10%が減算される
- 短期入所系・多機能系は令和6年度改定で対象に追加され、令和7年4月から1%の減算が適用されている
- 運営指導では、体制の整備状況と、個別の身体拘束の記録の両方が確認される
体制の整備状況は運営指導で確認されます。準備の順番は介護事業所の運営指導の準備で整理しています。業務継続計画・感染症対策・虐待防止など、他の体制整備との関係は介護事業所のBCP|作り方と研修・訓練、未策定減算も参考にしてください。
参考資料
- 北見市「地域密着型サービスの身体拘束廃止未実施減算の取り扱い」(委員会の開催頻度、減算率の解説):https://www.city.kitami.lg.jp/administration/welfare/detail.php?content=10521
- 介護経営ラボ「身体拘束適正化委員会とは?介護(障害)事業所で求められる開催頻度・検討事項・要件・議事録まで解説」(専門家監修、サービス区分別の義務化状況):https://pro-care.jp/shintaikosoku-tekiseika-iinkai-toha/
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」(社会保障審議会介護給付費分科会資料、短期入所系・多機能系への対象拡大)