介護事業所は、虐待の発生と再発を防ぐために、委員会の定期的な開催、指針の整備、研修の定期的な実施、担当者の設置の4つを講じなければなりません(訪問介護なら指定居宅サービス等基準 第37条の2。ほかのサービスの基準にも同じ趣旨の規定があります)。令和3年度に導入され、3年間の努力義務の期間を経て、令和6年4月から義務になっています。

令和6年度の介護報酬改定では、この4つの措置が講じられていない場合に高齢者虐待防止措置未実施減算(所定単位数の100分の1)がかかるようになりました。虐待が起きていなくても、4つのうち1つでも欠けていれば減算の対象です。

この記事では、運営基準と解釈通知、令和6年度改定のQ&Aにもとづいて、4つの措置の中身、減算の期間、市町村への通報の義務、小規模事業所の進め方を整理します。


1. 義務の根拠:運営基準と高齢者虐待防止法

運営基準(第37条の2)の4つの措置

訪問介護の運営基準 第37条の2は、次の4つを求めています。

号措置条文の要点
第1号委員会虐待の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、その結果を従業者に周知徹底する。テレビ電話装置等を使って開催してもよい
第2号指針虐待の防止のための指針を整備する
第3号研修従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施する
第4号担当者第1号から第3号の措置を適切に実施するための担当者を置く

このほか、同じ基準の第3条第3項(一般原則)は、利用者の人権の擁護と虐待の防止のために体制を整え、従業者に研修を行うことを求めています。また第29条は、運営規程に「虐待の防止のための措置に関する事項」を定めることを求めています(第7号)。解釈通知によると、ここには責任者の選定、従業者への研修方法や研修計画、虐待や虐待が疑われる事案が起きたときの対応方法などを書きます。

高齢者虐待防止法の義務

高齢者虐待防止法は、介護保険の事業所の従業者(養介護施設従事者等)による虐待について、次のことを定めています。

条内容
第2条第5項従業者による虐待の5つの類型:身体への暴行、養護を著しく怠ること(介護等の放棄)、著しい暴言や拒絶的な対応(心理的虐待)、わいせつな行為(性的虐待)、財産の不当な処分など(経済的虐待)
第20条事業者は、従業者の研修、利用者と家族からの苦情処理の体制の整備などの措置を講じる
第21条第1項従業者は、自分の働く事業所(同じ事業者の他の事業所を含む)で、従業者による虐待を受けたと思われる高齢者を見つけたら、速やかに市町村に通報しなければならない
第21条第6項守秘義務の規定は、この通報を妨げるものと解釈してはならない(虚偽・過失によるものを除く)
第21条第7項従業者は、通報したことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いを受けない

第2条第6項により、65歳未満でも、介護保険の事業所を利用している障害者は高齢者とみなして、この規定が適用されます。

通報は「虐待だと確信したら」ではなく「虐待を受けたと思われる」段階で行う義務です。事業所の中で事実確認を終えてから通報する、という順番にはなっていません。指針と研修では、この点を必ず伝えます。


2. 高齢者虐待防止措置未実施減算

減算の要件と幅

項目内容
対象全サービス(居宅療養管理指導、特定福祉用具販売を除く)
減算の幅所定単位数の100分の1
算定要件虐待の発生又はその再発を防止するための措置(委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めること)が講じられていない場合
経過措置福祉用具貸与のみ3年間

居宅療養管理指導は減算の対象外ですが、運営基準の措置の義務そのものはあります。Q&A(Vol.1 問170)は、居宅療養管理指導や居宅介護支援のような小規模な事業所にも、委員会と研修の定期的な実施を求めています。

減算の期間

令和6年度改定のQ&A(Vol.1)は、減算の期間を次のように示しています。

問答えの要点
問167虐待が発生していなくても、4つの措置が講じられていなければ減算。一つでも欠ければ減算
問168運営指導などで見つかった事実が過去のものでも、さかのぼっては適用しない。見つかった日の属する月が「事実が生じた月」になる
問169速やかに改善計画を都道府県知事に提出し、事実が生じた月から3か月後に改善状況を報告する。事実が生じた月の翌月から、改善が認められた月まで、利用者全員について減算。改善計画の提出の有無に関わらず、翌月から減算してよい

業務継続計画未策定減算は「基準を満たさない事実が生じた時点」までさかのぼって適用されますが(同 問166)、虐待防止の減算はさかのぼりません。そのかわり、見つかった翌月から少なくとも数か月は減算が続くことになります。

減算の重さの目安を、例として示します。1か月の基本報酬(所定単位数から計算した額)が300万円の事業所なら、100分の1は月3万円です。改善が認められるまで続くので、4か月続けば12万円になります(数字は計算の例で、実際の額は事業所の単位数と地域区分で決まります)。


3. 委員会(第1号)

解釈通知(訪問介護は老企第25号)は、委員会(虐待防止検討委員会)について次のように示しています。

  • 構成:管理者を含む幅広い職種で構成し、構成メンバーの責務と役割分担を明確にする。虐待防止の専門家を委員として積極的に活用することが望ましい
  • 開催:定期的に開催する。回数の定めは無いので、年間計画で開催月を決めておく
  • 一体的な運営:他の会議体を設置している場合は、これと一体的に設置・運営してよい。他のサービス事業者との連携により行ってもよい
  • オンライン:テレビ電話装置等で開催してよい(個人情報の取扱いのガイダンスなどを守る)
  • 扱いの注意:虐待の事案は複雑で機微な事情を含むため、一概に全従業者に共有すべき情報とは限らず、個別の状況に応じて慎重に対応する

委員会で検討する事項として、解釈通知は次の7つを挙げています。検討の結果(事業所の体制、再発防止策など)は、従業者に周知徹底します。

記号検討する事項
イ委員会その他事業所内の組織に関すること
ロ虐待の防止のための指針の整備に関すること
ハ虐待の防止のための職員研修の内容に関すること
ニ虐待等について、従業者が相談・報告できる体制の整備に関すること
ホ従業者が高齢者虐待を把握した場合に、市町村への通報が迅速かつ適切に行われるための方法に関すること
ヘ虐待等が発生した場合、その発生原因等の分析から得られる再発の確実な防止策に関すること
ト再発の防止策を講じた際に、その効果についての評価に関すること

議事録には、開催日、出席者(職種)、検討した事項(上のイ〜トのどれか)、決めたこと、従業者への周知の方法と日付を残します。


4. 指針(第2号)

解釈通知は、「虐待の防止のための指針」に次の項目を盛り込むこととしています。

記号盛り込む項目書き方の例
イ事業所における虐待の防止に関する基本的考え方利用者の尊厳の保持と人格の尊重を掲げ、高齢者虐待防止法の5類型を示す
ロ委員会その他事業所内の組織に関する事項委員会の構成、責任者(担当者)、開催の時期
ハ職員研修に関する基本方針年1回以上の定期研修と新規採用時の研修、記録の方法
ニ虐待等が発生した場合の対応方法に関する基本方針利用者の安全の確保、事実の記録、市町村への通報、家族への説明
ホ虐待等が発生した場合の相談・報告体制に関する事項誰に、どの手段で報告するか。担当者が不在のときの報告先
ヘ成年後見制度の利用支援に関する事項地域包括支援センターなどの相談先につなぐ
ト虐待等に係る苦情解決方法に関する事項苦情の受付窓口と、市町村・国保連の窓口の案内
チ利用者等に対する当該指針の閲覧に関する事項事業所内での掲示、求めに応じた閲覧
リその他虐待の防止の推進のために必要な事項身体的拘束等の適正化との関係など

「書き方の例」の列は当社の整理で、通知の文言ではありません。運営規程の「虐待の防止のための措置に関する事項」(第29条第7号)と、指針の内容が食い違わないようにしておきます。


5. 研修(第3号)と担当者(第4号)

研修

解釈通知は、研修について次のように示しています。

  • 内容は、虐待等の防止に関する基礎的な知識の普及・啓発と、事業所の指針にもとづく虐待防止の徹底
  • 指針にもとづいた研修プログラムを作り、定期的な研修(年1回以上)を実施する
  • 新規採用時には必ず虐待の防止のための研修を実施する
  • 研修の実施内容を記録する
  • 事業所内での研修でよい

研修で扱う内容は、高齢者虐待防止法の5類型、「思われる」段階での通報の義務(第21条第1項)、通報者の保護(同第7項)、事業所の相談・報告の流れの4つを最低限にすると、指針とつながります。

担当者

解釈通知は、第1号から第3号の措置を適切に実施するため、専任の担当者を置くことが必要とし、委員会の責任者と同じ従業者が務めることが望ましいとしています。担当者の氏名は、指針と運営規程の組織の項目に書いておくと、運営指導で確認されたときに示しやすくなります。


6. 小規模な事業所の進め方

Q&A(Vol.1 問170)は、従業者が実質1名の事業所も含め、規模に関わりなく委員会と研修を定期的に行うよう求めたうえで、次の方法を例に挙げています。

措置Q&Aが挙げる方法
委員会法人内の複数事業所による合同開催、感染症対策委員会など他の委員会との合同開催、関係機関等の協力を得た開催
研修法人内の複数事業所や他の委員会との合同開催、都道府県や市町村が実施する研修会への参加、複数の小規模事業所による外部講師を活用した合同開催

合同で行う場合は、参加した各事業所の従業者と、実施した内容が記録で確認できるようにしておくことが求められています。Q&Aは、委員会の設置・運営、指針の策定、研修の企画の参考として、認知症介護研究・研修仙台センターの「施設・事業所における高齢者虐待防止のための体制整備」の参考例を挙げています。

感染症対策の委員会(訪問介護はおおむね6月に1回以上)と一体で開く場合は、議題に虐待防止の項目(第3章のイ〜ト)を明記し、議事録で区別できるようにします。


7. 整える順番

これから整える、または見直す場合の順番の例です。

  1. 担当者を決める:委員会の責任者を兼ねる人を1人決め、運営規程と指針の組織の項目に書く
  2. 委員会を開く:初回は、指針の案、研修の年間計画、相談・報告の流れ、市町村の通報窓口の確認を議題にする
  3. 指針を整える:第4章のイ〜リの項目がそろっているかを確かめ、事業所内で閲覧できるようにする
  4. 研修を行う:年1回以上の定期研修の日を決め、新規採用時の研修を入職時の手順に組み込む。実施内容と参加者を記録する
  5. 周知する:委員会の結果と指針を従業者に伝え、伝えた日付と方法を記録する
  6. 年間で回す:委員会の開催月、研修の月、指針の見直しの時期を年間計画に入れる

8. つまずきやすい点

  • 指針はあるが委員会の記録が無い:4つの措置は1つでも欠けると減算です。開いていても議事録が無ければ、開いたことを示せません。
  • 新規採用時の研修が抜ける:定期研修の日に入職者を合わせる運用だと、入職から研修までに間が空きます。入職時の手順に入れておきます。
  • 「事実確認が済んでから通報」と教えている:法律の義務は「虐待を受けたと思われる」段階での通報です。事業所内の確認を理由に通報を遅らせない流れにします。
  • 合同開催の記録が法人単位だけ:合同で開いた場合も、どの事業所の誰が参加したかが分かる記録が要ります。
  • 運営規程を直していない:第29条第7号の「虐待の防止のための措置に関する事項」が運営規程に無い場合は、運営規程を変更します。変更届の要否は指定権者の案内で確認します。

9. まとめ

  • 介護事業所は、虐待防止の委員会の定期的な開催、指針の整備、研修の定期的な実施、担当者の設置の4つを講じる義務がある(訪問介護なら運営基準 第37条の2)。令和6年4月から義務
  • 4つのうち1つでも欠ければ、虐待が起きていなくても高齢者虐待防止措置未実施減算(所定単位数の100分の1)の対象。福祉用具貸与は3年間の経過措置
  • 減算はさかのぼらないが、事実が生じた月の翌月から、改善が認められた月まで利用者全員について続く
  • 研修は年1回以上と新規採用時に必ず行い、内容を記録する。担当者は専任で、委員会の責任者と同じ人が望ましい
  • 従業者は、虐待を受けたと思われる高齢者を見つけたら速やかに市町村に通報する義務があり、通報を理由に不利益な取扱いを受けない

虐待防止の体制は、業務継続計画・感染症対策と並んで運営指導で確認されます。業務継続計画については介護事業所のBCP、運営指導に向けた準備の順番は介護事業所の運営指導の準備で整理しています。運営規程と重要事項説明書の関係は介護の重要事項説明書を参照してください。


参考資料