訪問介護の指定を受けるには、訪問介護員等(常勤換算2.5以上)・サービス提供責任者・管理者の3つの人員基準と、事業の運営に必要な広さの事務室という設備基準を満たしたうえで、都道府県知事(指定都市・中核市では市)に指定申請を行います。介護保険の指定を受ける前にサービスを始めても介護報酬は請求できないため、人員・設備の準備と資金計画を、申請の締切から逆算して進める必要があります。
この記事では、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号。以下「基準省令」)にもとづく人員・設備基準と、開業資金の調達先を整理します。法人設立から指定までの共通の流れは「介護事業の開業の流れ」で扱っているため、ここでは訪問介護に固有の点に絞ります。
1. 人員基準:訪問介護員等・サービス提供責任者・管理者
基準省令第5条は、訪問介護の人員基準を次のように定めています。
| 職種 | 基準 |
|---|---|
| 訪問介護員等 | 常勤換算方法で2.5以上 |
| サービス提供責任者 | 利用者の数が40人またはその端数を増すごとに1人以上。介護福祉士その他厚生労働大臣が定める者で、専ら訪問介護に従事する者 |
| 管理者 | 常勤で、専ら管理の職務に従事する者(支障がなければ他の職務との兼務可) |
サービス提供責任者の資格要件は、介護福祉士のほか、実務者研修修了者、旧ホームヘルパー1級課程修了者などが対象です(厚生労働大臣が定める者)。訪問介護員等(ホームヘルパー)は、介護職員初任者研修修了者などが該当します。資格要件の細部や経過措置は、指定権者が公表している指定申請の手引きで確認してください。
管理者は、利用者数が一定規模以下の事業所などでは訪問介護員等やサービス提供責任者との兼務が認められる場合がありますが、兼務できる範囲は指定権者の解釈によって異なるため、事前相談の段階で確認しておくと申請書の作成がスムーズです。
2. 設備基準:専用の事務室
基準省令第7条は、訪問介護事業者について、事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の事務室を設けるほか、サービスの提供に必要な設備及び備品等を備えることを求めています。他の事業と同一の建物内に事務所を置く場合でも、間仕切りをするなどして他の事業の用に供するものと明確に区分されていれば、同一の事務室で差し支えないとされています。
訪問介護は通所介護のような食堂・機能訓練室の面積基準がなく、物件の確保という点では比較的始めやすいサービスですが、その分職員の採用と教育、記録・請求の体制づくりに資金と時間を割く必要があります。
3. 開業資金の目安と調達先
訪問介護は店舗の内装工事などが少ない一方、介護報酬は利用月の翌々月に国民健康保険団体連合会から入金されるため、入金までの人件費・家賃などを賄う運転資金の確保が開業準備の中心になります。
日本政策金融公庫(国民生活事業)は、介護サービス事業を含む社会的課題の解決に取り組む事業者向けに「ソーシャルビジネス支援資金」を用意しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | NPO法人、または保育・介護サービス事業など社会的課題の解決を目的とする事業を営む人 |
| 融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円。担保ありの場合) |
| 返済期間 | 設備資金20年以内、運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内) |
| 利率 | 介護サービス事業を営む者には特別利率が適用される |
利率や限度額は改定されるため、申し込みの前に日本政策金融公庫の公式サイトで最新の条件を確認してください。自治体によっては、創業者向けの制度融資や信用保証協会の保証付き融資を併用できる場合もあります。
4. 指定申請に向けた段取り
- 指定権者への事前相談:事業所の所在地を所管する都道府県・指定都市・中核市の窓口で、申請締切、事前相談の要否、様式を確認する
- 職員の確保:サービス提供責任者と管理者は、申請書に氏名・資格を記載する必須事項のため、内定の段階で資格証の写しなどを集めておく
- 運営規程・重要事項説明書の整備:営業日・営業時間・利用定員・料金などの記載を、申請書類の間で食い違わせない
- 指定申請:締切までに申請書と添付書類を提出し、補正の指示に対応する
- 指定後の加算届出:処遇改善加算などを算定するには、指定と合わせて体制等に関する届出が必要になる場合がある
5. 開業でつまずきやすい点
- サービス提供責任者の資格要件の見落とし:資格要件は経過措置や都道府県の解釈で変わることがあるため、採用前に指定権者へ確認する
- 運転資金を過小に見積もる:介護報酬の入金タイムラグ(2か月前後)を考慮せず、開業直後の資金繰りに窮するケースがあります。数か月分の運転資金を資金計画に織り込んでください
- 兼務の範囲を誤る:管理者とサービス提供責任者、訪問介護員等の兼務は、指定権者ごとに認められる範囲が異なります
- 運営規程と重要事項説明書の不一致:料金や営業時間の記載が書類ごとに違うと、申請時や運営指導で指摘の対象になります
6. まとめ
- 訪問介護の人員基準は、訪問介護員等(常勤換算2.5以上)、サービス提供責任者(利用者40人ごとに1人以上)、常勤の管理者(基準省令第5条)
- 設備基準は、事業の運営に必要な広さの専用の事務室(基準省令第7条)
- 介護報酬の入金タイムラグを前提に、運転資金を厚めに見積もる。日本政策金融公庫の「ソーシャルビジネス支援資金」は介護サービス事業者に特別利率を適用する
- 指定は都道府県知事(指定都市・中核市では市)が行う。申請書に書く職員の資格要件は事前に確認する
参考資料
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第5条・第7条(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100037
- 介護保険法(平成9年法律第123号)第70条(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123
- 日本政策金融公庫「ソーシャルビジネス支援資金」(国民生活事業):https://www.jfc.go.jp/
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「ソーシャルビジネス支援資金」:https://j-net21.smrj.go.jp/support/publicsupport/2020012001.html