監査は、基準に従っていない、介護報酬の請求に不正がある、高齢者虐待があるといった疑いがあるときに、行政が立入検査等で事実を確かめ、処分などの措置につなげる手続きです。全ての事業所を対象に計画的に行う運営指導とは、目的も手続きも違います。
厚生労働省の集計では、令和6年度の監査の実施件数は1,190件、指定取消等の行政処分は158件(指定取消59件、効力の一部停止86件、全部停止13件)でした。この記事では、厚生労働省の「介護保険施設等監査指針」と介護保険法をもとに、監査の流れと処分の種類を整理します。
1. 運営指導と監査の違い
| 項目 | 運営指導 | 監査 |
|---|---|---|
| 目的 | サービスの質の確保と向上、制度の理解の促進 | 基準違反・不正請求などの事実を確かめ、公正かつ適切な措置をとる |
| 対象 | 全ての事業所(計画的に実施) | 違反や不正の疑いがある事業所 |
| 根拠 | 介護保険法第23条・第24条(指導) | 同法第76条(居宅サービス)など(報告の命令、立入検査等) |
| 通知 | 原則として実施日の1月前まで | 監査開始時に文書で通知。運営指導から移るときは口頭で通告 |
| 結果 | 指摘事項の改善報告、介護報酬の自主点検・返還 | 改善報告、勧告、命令、指定の取消し・効力の停止など |
運営指導の準備は介護事業所の運営指導の準備で整理しています。
2. 監査のきっかけ
監査指針は、次の情報を踏まえて、必要があると認める場合に立入検査等で監査を行うとしています。
- 通報・苦情・相談等にもとづく情報
- 市町村が高齢者虐待防止法にもとづき虐待を認定した場合や、利用者の生命・身体の安全に危害を及ぼしている疑いがある情報
- 国民健康保険団体連合会や地域包括支援センターに寄せられる苦情
- 国民健康保険団体連合会・保険者からの通報
- 介護給付費適正化システムの分析で特異な傾向を示す事業所
- 介護サービス情報の報告の拒否等に関する情報
- 運営指導で認められた(その疑いを含む)基準違反等や人格尊重義務違反
職員や利用者・家族からの通報、苦情が監査の入口になることが多いため、苦情への対応や虐待防止の取り組みは、監査を避けるためにも欠かせません。虐待防止の取り組みは介護の高齢者虐待防止の取り組みを参照してください。
3. 監査の進め方
実施通知
監査の対象を決めたときは、次の事項が監査開始時に文書で通知されます。
- 監査の根拠規定
- 監査の日時と場所
- 監査担当者
- 事業所の出席者(役職名等で可)
- 必要な書類等
- 虚偽の報告・答弁、検査の忌避等に関する罰則規定
運営指導の実施中に監査へ移る場合は、口頭で監査を行う旨が通告されます。地域密着型サービスなど複数の市町村に関わる場合は、関係する市町村が情報を共有し、同時に監査を行うことがあります。
報告・検査に応じないとき
報告の命令に従わない、虚偽の報告をする、出頭に応じない、質問に答えない・虚偽の答弁をする、検査を拒む・妨げるといった行為は、それ自体が指定の取消し等の事由になります(介護保険法第77条第1項第7号・第8号)。監査では、記録をそのまま示し、事実を正確に説明することが大切です。
4. 行政上の措置の種類
| 措置 | 内容 |
|---|---|
| 改善報告 | 処分に当たらない改善事項について、期限を定めて報告を求める |
| 勧告 | 期限を定めて、文書で基準の遵守等の措置をとるよう勧告する。期限内に従わなければ公表できる |
| 命令 | 正当な理由なく勧告に従わない場合に、期限を定めて措置を命令する。命令したときは公示する |
| 指定の取消し等 | 法第77条第1項などの各号に当たる場合に、指定を取り消し、または期間を定めて指定の全部・一部の効力を停止する |
介護老人保健施設・介護医療院は、許可の取消し等、設備の使用制限、管理者の変更命令、業務運営の勧告・命令の規定があります。
指定の取消し等の主な事由(居宅サービスの例)
介護保険法第77条第1項は、次のような場合に指定の取消し等ができると定めています。
- 従業者の知識・技能・人員が、条例で定める基準・員数を満たせなくなった
- 設備・運営の基準に従った適正な運営ができなくなった
- 居宅介護サービス費の請求に関し不正があった
- 報告・帳簿の提出の命令に従わない、虚偽の報告をした
- 出頭・質問・検査を拒んだ、虚偽の答弁をした
- 不正の手段により指定を受けた
- 保健医療・福祉に関する法律や命令・処分に違反した
- 居宅サービス等に関し不正または著しく不当な行為をした
令和6年度の集計では、指定取消等の処分事由は、多い順に、不正請求、法令違反、人格尊重義務違反、虚偽答弁でした。サービス別では、指定訪問介護事業所が30件と最も多く、認知症対応型共同生活介護13件、特定施設入居者生活介護12件と続いています。
聴聞・弁明の機会
命令や指定の取消し等に当たると認められる場合は、監査の後、行政手続法にもとづき聴聞または弁明の機会が与えられます。事業所は、この場で事実関係や改善の取り組みについて意見を述べることができます。
5. 返還金と加算金
取消処分等(命令を除く)を行った場合で、偽りその他不正の行為で介護報酬の支払いを受けているときは、支払った額のうち返還させるべき額を不正利得として、保険者が徴収します。あわせて、介護保険法第22条第3項により、原則として返還させるべき額に100分の40を乗じた額(加算金)が徴収されます。
令和6年度に指定取消等に伴って返還を求めた額は、約11億5千万円でした(令和5年度以前に監査し、令和6年度に確定した額を含む)。
6. 取消し後の影響
指定を取り消された事業者は、介護保険法第70条第2項などにより、取消しの日から5年を経過するまで、新たな指定や更新を受けられないことがあります。取消しの処分の通知があった後に事業の廃止を届け出た場合も、届出の日から5年は同じ扱いです。役員等が欠格事由に当たる場合も、法人の指定・更新に影響します。
ただし、取消しの理由となった事実と、その発生を防ぐための業務管理体制の整備の取り組みの状況など、事業者の責任の程度を考慮して、対象外とすることが相当と認められる場合が省令で定められています。指定の更新と欠格事由は介護事業所の指定更新で整理しています。
監査を招かないための点検
- 人員と請求を毎月突き合わせる:勤務実績と加算の算定要件、提供の記録と請求を照らします(介護の常勤換算の計算方法)
- 減算の対象を見落とさない:未実施の取り組みがあれば、減算して請求します(介護事業所の減算の一覧)
- 苦情と通報の窓口を機能させる:苦情の内容と対応を記録し、早めに改善します
- 誤りに気づいたら相談する:請求の誤りに気づいたら、指定権者・保険者に相談し、過誤調整で正します
チェックリスト
- 運営指導と監査の違いを管理者が説明できる
- 勤務実績・提供記録・請求を毎月突き合わせている
- 苦情と事故の記録を残し、改善につなげている
- 虐待防止の委員会・指針・研修・担当者がそろっている
- 請求の誤りに気づいたときの相談先と手順を決めている
7. まとめ
- 監査は、基準違反・不正請求・虐待などの疑いがあるときに、立入検査等で事実を確かめる手続き
- 通報・苦情や運営指導で見つかった疑いが、監査のきっかけになる
- 措置は、改善報告、勧告(公表)、命令(公示)、指定の取消し・効力の停止
- 不正請求の取消処分等では、返還金に加えて原則100分の40の加算金が徴収される
- 取消しを受けると、原則として5年間は新たな指定・更新を受けられない
監査の手続きと処分の基準は、指定権者の要綱・基準で具体的に定められていることがあります。所在地の指定権者の案内もあわせて確かめてください。
参考資料
- 厚生労働省「介護保険施設等指導指針及び介護保険施設等監査指針」:https://www.mhlw.go.jp/content/001280521.pdf
- 厚生労働省「介護保険施設等に対する監査マニュアル」:https://www.mhlw.go.jp/content/001274674.pdf
- 厚生労働省「令和6年度における指導及び指定取消処分等の状況」:https://www.mhlw.go.jp/content/001673059.pdf
- 厚生労働省「介護保険施設等の指導監督」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/service/index_00001.html
- 介護保険法(平成9年法律第123号)第22条・第70条・第76条・第77条(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123