運営指導の指摘は、多くの事業所で同じ項目に集中しています。計画の同意が提供の開始より後になっている、サービス提供記録の時刻が計画の時間のまま、研修の記録に参加者が書かれていない、運営規程と重要事項説明書の内容が食い違っている、といった抜けです。
こうした抜けは、忙しい時期に後回しにした作業が積み重なって生まれます。この記事では、福井県・和歌山県・松山市が集団指導で公表した運営指導の主な指摘事項をもとに、項目ごとの原因と、日々の業務で抜けを防ぐ点検の方法を整理します。
1. 運営規程・重要事項説明書・契約書
福井県の令和6年度の指摘事項には、次のような項目が挙がっています。
- 運営規程と重要事項説明書の内容が実態と一致していない(営業日、営業時間、職員の勤務体制、実施地域、利用料など)
- 運営規程や契約書に書いた記録の保存期間が、県の基準(完結の日から5年間)になっていない
- 重要事項説明書・契約書に、契約日・契約期間・利用者名などの記載漏れがある
- 運営規程に「虐待の防止のための措置に関する事項」が書かれていない
- 利用料金の改定に伴う重要事項の変更について、利用者の書面による同意を得ていない
原因は、運営規程を変えたときに、重要事項説明書・契約書・掲示物を同じ日に直していないことです。職員の員数は毎月変わるため、書き方(「○人以上」など)を指定権者の案内で確かめておきます。保存期間は介護記録の保存期間、重要事項説明書の作り方は介護の重要事項説明書で整理しています。
2. 計画の作成・説明・同意・交付
| 自治体 | 指摘・指導の内容 |
|---|---|
| 福井県 | 計画の作成、説明、同意、交付が遅れている。計画はサービス提供開始前に作成し、速やかに説明して同意を得ること |
| 和歌山県 | 計画の作成に当たり、アセスメントとモニタリングを実施していなかった。計画を作成した際に遅滞なく交付していなかった |
| 松山市 | 個別サービス計画の目標は、居宅サービス計画をそのまま転記せず、事業所ごとに作ること。同意はサービス提供期間の開始前に必ず利用者本人から得ること。代筆の場合は本人の氏名に加えて代筆者の署名も必要 |
原因は、ケアプランの変更や要介護認定の更新に合わせて個別の計画を作り直す流れが決まっていないことです。担当者会議の日、ケアプランの受領日、計画の作成日、説明・同意・交付の日が、この順に並んでいるかを確かめます。最新の居宅サービス計画を受け取っていないことや、担当者会議の議事内容を保管していないことも、福井県の指摘に挙がっています。
3. サービス提供の記録
- 時刻が計画の時間のまま:和歌山県は、サービス開始・終了の時刻が、実際の提供時間ではなく計画に位置付けた時間で書かれていたとして、当日の実際の時間を記録するよう指導しています
- 様子が書かれていない:松山市は、提供したサービスの内容だけでなく、利用者の心身の状況(様子)も記録するよう求め、「特変なし」などしか書かれていない記録があったとしています
- 記入漏れ・誤り:福井県は、提供した日時、具体的な内容、心身の状況、担当者などの記入漏れ・誤りを挙げています
提供の記録は、介護報酬の請求の根拠です。記録がない場合や要件を満たさずに加算を算定していた場合は、さかのぼって返還が必要になることがあると、福井県は注意を促しています。
4. 勤務体制・研修・委員会
| 項目 | 指摘の例(福井県) |
|---|---|
| 勤務表 | 日々の勤務時間、常勤・非常勤の別、兼務関係を明確にした月ごとの勤務表を作っていない |
| 兼務 | 複数の事業所で兼務する場合に、それぞれの事業所で従事する時間を分けて勤務実績を残していない |
| 研修の記録 | 日時、場所、参加者、内容を記録し資料を添えていない。欠席者への代替措置を記録していない |
| ハラスメント | 方針の明確化と周知、相談の担当者の決定と周知ができていない |
| 資格 | 職員の資格・免許を証明する書類を備えていない |
| 認知症の研修 | 資格のない介護従業者に認知症介護基礎研修を受講させる措置を講じていない |
勤務表と常勤換算の考え方は介護の常勤換算の計算方法で整理しています。
委員会・研修・訓練
福井県は、感染症の委員会をおおむね6月に1回以上開いていない、感染症・業務継続計画の研修と訓練を定期的に行っていない、虐待防止の指針・委員会・研修がそろっていない、避難訓練を年2回以上(夜間想定を年1回以上)行っていないといった項目を挙げています。施設系は研修・訓練が年2回以上とされているものがあります。取り組みが欠けると減算の対象になるものもあります(介護事業所の減算の一覧)。
5. 苦情・事故・秘密保持
- 苦情や事故の原因、再発防止策を検討・記録していない
- 利用者がサービス提供中に負傷して受診した事故を、市町村に報告していない
- 担当者会議で家族の情報を使う場合に備えた、家族からの個人情報の提供の同意書がない
- 全ての従業者から、在職中・退職後の秘密保持の誓約書を取っていない
事故報告の範囲と期限は介護事故の報告で整理しています。
6. 加算の要件の継続的な確認
加算は、届出のときに要件を満たしていても、その後に満たさなくなることがあります。福井県の指摘には、次のような例があります。
- 訪問介護の特定事業所加算で、訪問介護員ごとの個別具体的な研修計画がない、おおむね月1回以上の会議を開いていない、健康診断の記録がない
- 通所介護で、事業規模の区分を決める前年度の平均利用延人員数を毎年算出していない
- 通所介護の中重度者ケア体制加算で、追加配置(常勤換算で2以上)を暦月ごとに確かめていない
- サービス提供体制強化加算で、介護福祉士や勤続年数の割合を届出後も継続して確かめていない
加算の届出と継続の確認は介護報酬の加算の取り方で整理しています。
7. 抜けを防ぐ仕組み
月末の突き合わせ
- 勤務実績と人員・加算の要件:勤務表の実績で、人員基準と加算の配置要件を満たしているかを確かめます。
- 提供記録と請求:提供記録の日時・内容と、請求の明細が一致しているかを確かめます。
- 計画と同意の日付:翌月に期間が切れる計画を拾い、担当者会議・作成・同意・交付の予定を入れます。
- 被保険者証の写し:認定の更新や負担割合の変更があった利用者の写しを差し替えます(福井県は、写しが最新でないことも指摘しています)。
年間の予定表
委員会、研修、訓練、業務継続計画の見直し、事業規模の区分の確認、加算の割合の確認を、年間の予定表に月単位で入れます。実施したら、日時・参加者・内容・資料と、欠席者への対応を記録します。
落とし穴
- 運営規程を変えたが、重要事項説明書と契約書を直していない
- 同意の日付がサービス提供の開始日より後になっている
- 提供記録の時刻を、計画の時間のまま書いている
- 研修は行ったが、参加者と欠席者への対応を記録していない
- 加算の要件を、届出のときにしか確かめていない
チェックリスト
- 運営規程・重要事項説明書・契約書の内容が実態と一致している
- 計画の作成・説明・同意・交付の日付が、提供開始の前に並んでいる
- 提供記録に実際の時刻と利用者の様子が書かれている
- 委員会・研修・訓練の年間予定があり、記録が残っている
- 加算の要件を毎月(割合の要件は年度ごとに)確かめている
8. まとめ
- 指摘は、書類と実態のずれ、計画の遅れ、記録の不備、研修・委員会の記録、加算の継続確認に集中している
- 運営規程を変えたら、重要事項説明書・契約書を同じ日に直す
- 計画は提供開始前に作成・説明・同意・交付し、日付の順を確かめる
- 提供記録は実際の時刻と利用者の様子を書く
- 月末の突き合わせと年間の予定表で、抜けを仕組みで防ぐ
運営指導の通知から当日までの準備は介護事業所の運営指導の準備で整理しています。指摘事項の傾向は自治体ごとに違うため、所在地の指定権者が集団指導で配る資料もあわせて確かめてください。
参考資料
- 福井県「令和6年度 介護保険施設等運営指導における主な指摘・指導事項」:https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/kourei/kousinkeisai_d/fil/R6-16.pdf
- 和歌山県「居宅サービスの運営指導における主な指摘事項について」(令和6年度集団指導資料):https://wave.pref.wakayama.lg.jp/kaigodenet/careprov/syuudansidou/R6/02/siryou/01kyotakuuneishidou.pdf
- 松山市「運営指導での主な指摘事項及び周知事項について」(令和5年度 第2回介護保険サービス事業者連絡会資料):https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kurashi/kaigohoken/zigyousya/shiteishidou/R5jigyousya.files/1siteisidou.pdf
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」(令和4年3月策定、令和6年7月改訂):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001281524.pdf